メンテナンス記録・故障履歴の書き方|設備の修理記録を組織の資産に変える
メンテナンス記録・故障履歴とは、「いつ・どの設備で・何が起きて・どう対処したか」を設備ごとに残す記録です。書き方の要点は、現象・処置・交換部品・停止時間・費用、そして判断の理由まで残すことです。
その場の報告のためだけでなく、あとから「どの設備に手がかかっているか」を分析できる形で書くことで、記録は担当者個人のメモから組織の資産に変わります。本記事では記入項目と書き方のコツ、記録が続く運用を解説します。
修理や故障対応は、どの現場でもすでに日々発生しています。しかしその記録となると、「対応した本人の頭の中にしかない」「業者の報告書がファイルに綴じてあるだけ」という現場が少なくありません。設備管理の仕組みづくりの中で、履歴の記録は今日から始められて、最初に成果が出るステップです(全体の流れは設備管理の始め方|ゼロから仕組みをつくる5つのステップのステップ2を参照してください)。ここでは、何をどう書けば記録が「使える資産」になるのかを具体的に解説します。
記録が残らない・使われない理由
「記録を残そう」という掛け声だけでは、記録は残りません。続かない理由はだいたい決まっています。
- 何を書けばよいかが決まっていない。書式がないと、書く内容も粒度も人によってばらばらになり、書くこと自体が億劫になります。
- 書く場所が分散している。日報に書く人、個人のノートに書く人、業者の報告書だけの人。場所が分かれた記録は、設備ごとにまとめて見返すことができません。
- 書いても誰も見返さない。記録が何かの判断に使われた経験がないと、「書いても意味がない」という感覚が現場に定着します。記録が使われない最大の理由は、実は書き方ではなく、見返す場がないことです。
対策はこの裏返しです。記入項目を決める・書く場所を1か所にする・月1回見返す。本記事の前半で項目と書き方を、後半で続ける運用を扱います。
メンテナンス記録と故障記録は分けて考える
ひとくちに履歴と言っても、性格の異なる2種類の記録があります。
| 故障の記録 | メンテナンス(作業)の記録 | |
|---|---|---|
| 残すこと | 起きた事実。いつ・どの設備で・どんな現象が起き、分類・原因は何だったか | 行った作業。修理・部品交換・定期整備など、何をして、いくらかかり、どれだけ止まったか |
| 対象 | 故障・不具合が起きたときだけ | 故障対応の修理も、計画にもとづく定期整備も、両方 |
| あとで効く場面 | 故障の傾向分析。「この設備はこの故障を繰り返している」が見える | 保全計画の立案・見直し。作業の実績が周期の根拠になる |
1件の故障対応では、「起きたこと(故障)」と「やったこと(修理)」の両方が発生します。この2つを分けて持っておくと、あとから「故障は何件起きたか」「作業に何時間・いくら使ったか」をそれぞれ集計できます。当社の「設備管理の匠WEB版」でも、この考え方のとおりメンテナンス台帳と故障台帳の2つの台帳で管理する構成になっています。
最低限そろえたい記入項目
様式は紙でもExcelでも構いませんが、あとから使うことを考えると、次の項目は共通してそろえたいところです。
| 記入項目 | 役割と書き方 |
|---|---|
| 設備(管理番号・名称) | どの設備の記録かを台帳と同じ管理番号で特定する。設備単位で履歴をまとめられるかどうかは、この欄にかかっている |
| 日付(発生日・作業の開始日/終了日) | 故障の発生日と、作業がいつ始まりいつ終わったか。同じ故障が「どのくらいの間隔で」再発しているかを追う起点になる |
| 現象(故障内容) | 何が起きたかを、見たままの事実で書く(異音がする、圧力が上がらない、エラー表示など)。原因の推測と混ぜないのがコツ |
| 分類・原因 | 故障の分類(機械的・電気的など)と原因(摩耗、劣化、操作ミスなど)。自由記述ではなく決めた選択肢から選ぶ形にすると、あとで集計できる |
| 処置(作業内容) | 何をしたか。応急処置で済ませたのか、根本対応まで行ったのかが分かるように書く |
| 交換部品 | 交換した部品の名称・数量。よく使う部品が履歴から分かれば、在庫を持つ判断の材料になる |
| 停止時間 | 設備が止まっていた時間。故障の「痛さ」を数字にする欄で、どの設備から手を打つかの優先順位づけに直結する |
| 費用(金額) | 部品代・作業費・外注費。設備別に集計すると、修理を重ねるより更新すべき設備が見えてくる |
| 作業者・依頼先 | 誰が(自社の担当者か、どの業者か)作業したか。次に同じことが起きたときの連絡先・相談先になる |
| 結果・考察(判断の理由) | なぜその処置を選んだか、様子見にした根拠、次に起きたら何を疑うべきか。ベテランの頭の中にしかない知見を組織に残せる唯一の欄 |
全部を毎回埋める必要はありません。ただし停止時間と費用は、できる限り省略しないでください。この2つは、あとから「どの設備に手をかけるべきか」をデータで判断するときの軸になります。概算で構いません。空欄の正確さより、概算でも入っていることのほうが分析では役に立ちます。
あとで分析に使える記録にする書き方のコツ
同じ項目をそろえても、書き方しだいで「読み物」にも「データ」にもなります。数ヶ月後の自分と、まだ見ぬ後任者のために、次の4点を意識してください。
- 分類は選択式でそろえる。自由記述で書くと、同じ故障でも書く人によって表現が変わります。例えば「モーター故障」「モータ不良」「電動機トラブル」と書かれた3件は、読めば同じことだと分かりますが、集計では別物として数えられます。故障の分類・原因は選択肢を決めて、そこから選ぶ運用にします。選択肢は最初は粗くてよく、増やすのは運用しながらで構いません。
- 数値は数値で書く。「しばらく停止していた」「高額の修理だった」と文章で残すと、あとから集計できません。停止時間の欄には「3」、費用の欄には「80000」というように、数値だけを入れる欄をつくって、単位をそろえて記入します。欄の名前を「停止時間(時間)」「費用(円)」のように単位まで含めた形にしておくと、時間と分が混ざったり、千円単位と円単位が混ざったりするのを防げます。集計の軸になるこの2つは、必ず数値で残してください。
- 現象・原因・処置を分けて書く。「ベルトが緩んでいたので交換した」と1文にせず、現象(異音)・原因(ベルトの緩み)・処置(交換)に分けます。分けてあると、「同じ現象で原因が違う」ケースを後から見分けられます。
- 定期整備など「何もなかった作業」も残す。異常のなかった整備の記録は、無駄に見えて、周期を延ばせるかどうかを判断する根拠になります。故障だけを記録すると、履歴は「トラブル集」になり、保全の実態を映さなくなります。
こうして書かれた記録が数ヶ月分貯まると、どの設備が繰り返し手を焼かせているか、費用と停止時間がどこに偏っているかが見え始めます。それが保全計画の立て方で解説している、計画の作業と周期を決める最良の材料になります。
- その日のうちに書く。記憶は2日で曖昧になります。作業直後の5分で書く運用を、記録の質を上げるどんな工夫よりも優先してください。
- 5分で書ける粒度に抑える。報告書のような文章は要りません。決めた項目を埋めるだけにして、書く負担を上げないことが継続の条件です。
- 月1回、見返す場を持つ。記録が判断に使われる経験があってはじめて、現場は「書く意味」を実感します。設備別の件数・費用・停止時間を並べるだけでも十分です。
システムでの履歴管理(設備管理の匠WEB版の場合)
紙やExcelでも履歴の記録は始められますが、記録が貯まるほど「設備ごとに見返す」「分類ごとに集計する」の手間が重くなります。設備管理システムでは、この記事で述べてきた書き方が、そのまま画面の構成になっています。当社の「設備管理の匠WEB版」の場合は次のとおりです。
- メンテナンス台帳と故障台帳の2本立て。作業の実績はメンテナンス台帳に、故障の事実は故障台帳に記録します。記入項目には、作業の開始日・終了日、メンテナンス内容、交換部品、停止時間、金額、作業従事者・メンテ業者、そして結果・考察の欄まで、本記事で挙げた項目が最初から用意されています。
- 記録は設備に自動で紐づく。どの記録も機器台帳の設備を選んで登録するため、設備の詳細画面を開けば、その1台に起きてきたことを時系列で見返せます。ファイルを探し回る作業がなくなります。
- 分類は選択式で表記ゆれを防ぐ。故障分類・故障原因・保全種類はあらかじめ登録した選択肢から選ぶ方式のため、集計に耐える記録が自然に貯まります。選択肢は自社に合わせて登録できます。
- 保全計画にもとづく作業は、予定に対して実績を入力する。この場合はメンテナンス台帳を新しく作るのではなく、未実施の予定に実績を入力します。入力する画面は、メンテナンス台帳の一覧からでも、保全計画データの一覧からでも構いません(メンテナンス台帳の一覧には、未実施の保全計画の予定もあわせて表示できます)。どこから入力しても記録と予定の紐づけは保たれるため、予定と実績の突き合わせがそのまま成立します。
- 貯まった記録は統計機能で集計できる。設備別・期間別の件数・金額・停止時間の集計とグラフ化が自動で行えるため、月1回の見返す場に出す資料を作る手間がなくなります。
メンテナンス台帳・故障台帳・統計機能は、いずれもフリープランで期間無制限・無料で利用できます。無料でどこまでできるかの全体像は、次の記事で解説しています。
よくある質問
Q. 過去の修理記録が紙のファイルに残っています。さかのぼって入力すべきですか?
A. 全件の入力は不要です。過去分の入力に時間を使うより、今日以降の記録を確実に残すことを優先してください。そのうえで余力があれば、主要な設備について直近1年分ほどをさかのぼると、保全計画の周期を決める材料として早く役立ちます。それ以前の紙の記録は、廃棄せず保管しておき、必要になった設備の分だけ参照すれば十分です。
Q. 現場が忙しく、記録が後回しになります。どうすればよいですか?
A. まず、記録の粒度を下げてください。全項目を丁寧に書く1件より、最小限でも書かれた10件のほうが価値があります。日付・設備・現象・処置の4つだけでも成立します。次に、書く場所と担当を1つに決めてください。現場の担当者はメモや写真で残し、決めた担当者がその日のうちにまとめて入力する形なら、入力の負担を1人分に集約できます。記録は「余裕があるときにやる作業」ではなく、修理・整備という作業の最後の1工程として組み込むのがコツです。
Q. どこまで小さな作業を記録すべきですか?外注した工事も対象ですか?
A. 判断の目安は「あとで同じ状況になったとき、この記録が参考になるか」です。増し締めや清掃のような軽微な処置でも、繰り返し発生しているなら記録する価値があります(繰り返し自体が保全計画に載せるサインだからです)。外注の修理・工事は必ず記録してください。業者の報告書を綴じるだけでなく、日付・内容・金額・停止時間を自社の履歴として残しておくと、設備別の集計から漏れなくなり、業者への発注履歴としても機能します。
設備保全の用語や保全方式の正確な定義は、当社が運営に関わる中立メディア「設備メンテナンスNews」の用語集で、官公庁の一次資料にもとづき解説しています。あわせてご覧ください。
本記事は設備のメンテナンス記録・故障履歴の残し方について、一般的な考え方を解説したものです。法令にもとづく点検・整備の記録要件(記載事項・保存年限など)は制度ごとに異なる場合があります。該当する法令および所管官庁の資料をご確認ください。