保全記録の活かし方|月1回の振り返りと、設備データの見方
保全記録の振り返りとは、月に一度、決まった3つの材料(設備別の集計・未対応の一覧・前回決めたことのその後)を見て、次の手を決める短時間の作業です。
議論のための会議ではありません。見るものをあらかじめ決めておけば、30分で終わります。そして、この振り返りがあってはじめて、記録は「貯まっているだけのデータ」から「判断の材料」に変わります。
設備台帳をつくり、修理や故障の記録を残し、保全計画を立てて実行する。ここまで来た現場が最後につまずくのが、貯めた記録を使うことです。記録は増えているのに誰も見返さない、という状態は珍しくありません。ここでは、月1回の振り返りで何を見て、どう次の手につなげるかを具体的に整理します。設備管理の仕組み全体の中での位置づけは、設備管理の始め方|ゼロから仕組みをつくる5つのステップのステップ5にあたります。
記録が「貯まるだけ」で終わる理由
振り返りが続かない現場には、共通した理由があります。
- 何を見ればよいか決まっていない。記録を開いても、生の履歴が時系列に並んでいるだけでは、そこから何を読み取るべきかが分かりません。眺めて終わり、になります。
- 材料をつくるのに時間がかかる。Excelで設備別の集計を作り直すだけで数時間かかるなら、忙しい月は必ず後回しになります。準備に手間がかかる会議は続きません。
- 見ても何も決まらない。「故障が多いですね」で終わり、次に何をするかが決まらない。決まらない場が続くと、参加者は集まらなくなります。
裏を返せば、見るものを決める・材料づくりを自動化する・必ず何かを決めて終わるの3点を押さえれば、振り返りは回ります。
月1回の振り返りで机に出す3つの材料
振り返りの場に出すものを、あらかじめ3つに固定します。これ以上は増やさないでください。
| 材料 | 見るポイントと、そこから決めること |
|---|---|
| 1. 設備別の集計 件数・費用・停止時間を多い順に |
上位に来る設備が、いま手をかけるべき設備。同じ設備が毎月上位にいるなら、対処のしかたを変える必要があるというサイン |
| 2. 未対応の一覧 予定日を過ぎた保全と、未完了の修理 |
1件ずつ「やる・やめる・周期を変える」を決める。流さないことが最も重要。放置された未対応が、計画を形骸化させる |
| 3. 前回決めたことのその後 先月の決定事項リスト |
決めたのに実行されていない項目を洗い出す。ここが抜けると、振り返りは「毎月同じ話をする場」になる |
この3つだけに絞る理由は、振り返りを短く保つためです。材料が増えるほど準備の負担が上がり、翌月から開かれなくなります。まずは30分で終わる形を確立し、続けられることを優先してください。
データの見方 ── 3つの軸で見え方が変わる
設備別の集計は、「何を数えるか」で上位に来る設備が変わります。次の3つの軸は、それぞれ違うことを教えてくれます。
| 軸 | 上位に来るのはどんな設備か | 打ち手の方向 |
|---|---|---|
| 件数 | 小さなトラブルが何度も起きている設備。1件あたりは軽微でも、対応の手間が積み上がっている | 原因が同じなら根本対処。周期の見直しや、部品の品質・仕様の変更を検討する |
| 費用 | 高額な修理が発生した設備。件数は少なくても金額が突出することがある | 修理を重ねるより更新したほうが安くないかを検討する。予算計画の根拠になる |
| 停止時間 | 止まると業務が長く滞る設備。件数も費用も小さいのに、影響だけが大きい設備が現れる | 予備品を持つ、代替手段を用意する、予防保全を厚くするなど、止まる時間を短くする方向 |
3つの軸で上位に来る設備は、たいてい一致しません。そこが重要です。件数だけを見ていると、年に1度しか壊れないが止まると半日業務が止まる設備を見落とします。逆に停止時間だけを見ていると、小さな手間が積み上がっている設備が視野から外れます。毎月3つとも並べて見る習慣をつけてください。
平均値と中央値は、両方見ると実態が分かる
「1件あたりの修理費」のような平均を出すとき、平均値と中央値では見え方が変わります。平均値は極端に大きい1件に引っ張られますが、中央値はデータを大きさ順に並べた真ん中の値なので、その影響を受けにくい性質があります。
両方を並べると、次のように読めます。平均値が中央値より大きく上回っていれば、普段は小さな修理が多いが、まれに高額な1件が混ざっているということです。この場合、日常の修理費を削る努力よりも、その突出した1件がなぜ起きたのかを追うほうが効果が大きくなります。逆に2つが近い値なら、費用は全体に平たく分布しており、単価の見直しや作業の効率化が効きやすい状況だと分かります。
MTBFは「絶対値」ではなく「変化」で読む
MTBF(平均故障間隔)は、その設備が故障してから次に故障するまでの間隔の平均を表す指標です。数値が大きいほど、故障せずに動き続けている時間が長いことを意味します。
注意したいのは、MTBFの絶対値そのものを他社や他設備と比べても、あまり意味がないことです。設備の種類・使用条件・稼働時間の数え方によって値は大きく変わります。実務で役に立つのは、同じ設備の値が時間とともにどう変化したかという見方です。保全のやり方を変えたあとにMTBFが伸びていれば、その変更は効いています。逆に短くなってきていれば、劣化が進んでいるか、保全の内容が実態と合わなくなってきているサインです。
指標を導入するときは、まず件数・費用・停止時間の3軸を続けることを優先してください。MTBFのような指標は、記録が1年以上貯まって傾向が読めるようになってから使うと、判断の助けになります。
見つけたことを、前のステップに戻す
振り返りは、見て終わりでは意味がありません。必ず何かを決めて、それを前のステップに戻します。戻し先は、おおむね次の3つです。
- 保全計画に戻す。同じ設備で故障が繰り返されているなら、周期を短くする、整備の内容を見直す、対象部位を追加する。逆に長く異常が出ていない作業は、周期を延ばせないかを検討します。周期の決め方と見直し方は保全計画の立て方で解説しています。
- 記録の項目に戻す。集計しようとして「原因が分からない」「停止時間が空欄で数えられない」となったなら、それは記録の書き方の問題です。何を必ず埋めるかを決め直します。記入項目の考え方はメンテナンス記録・故障履歴の書き方にまとめています。
- 設備そのものに戻す。修理費が累積して更新費用に近づいている設備、部品の供給が終わりつつある設備は、更新の検討対象です。振り返りの記録は、そのまま予算要求の根拠になります。
そして、この循環を重ねるうちに起きるのが、「どの設備が重要か」が担当者の感覚ではなく記録によって裏づけられていくという変化です。最初に誰かが重要度を決める必要はありません。件数・費用・停止時間の偏りが、手をかけるべき設備を教えてくれます。仕組みを持つことの見返りは、この判断の土台が手に入ることにあります。
- 日を固定する。「毎月第1営業日の午前」のように決めてしまいます。空いた時間にやろうとすると、必ず流れます。
- 30分で終える。材料を3つに絞り、議論が長引きそうな案件は「担当と期限を決めて持ち帰り」にします。場を短く保つことが、翌月も開かれる条件です。
- 決めたことを書き残す。次回の材料3になります。決定事項が記録されていないと、同じ議論を繰り返すことになります。
システムでの振り返り(設備管理の匠WEB版の場合)
ここまでの3つの材料は、Excelでもピボットテーブルと並べ替えで作れます。ただし毎月それを手作業で用意し続けられるかが、振り返りが定着するかどうかの分かれ目になります。設備管理システムを使うと、材料づくりの部分がなくなります。当社の「設備管理の匠WEB版」の場合は次のとおりです。
- 未対応は、ログインした時点で見えている。ダッシュボードに修理未完・保全計画未完・部品適正在庫警告・耐用年数超過・正常機器稼働割合の5つが常時表示されます。さらにアクションセンターとして、修理未完の一覧と保全計画未完の一覧がカードで並びます。材料2(未対応の一覧)は、探しにいく必要がありません。
- 設備別の集計は、条件を選ぶだけ。統計機能では、集計するデータ(メンテナンス台帳/故障台帳)、期間、集計の単位(機器別・親機器別・設置分類・機種分類・保全種類別・メンテナンス業者別・故障分類別・故障原因別など)、集計する項目(件数・金額・工数・停止時間)、並び順を選んで集計できます。材料1(設備別の集計)が、その場で出せます。
- 平均値・中央値・MTBFも追加できる。集計に平均値・中央値・MTBF・トレンド分析を加えられるため、この記事で述べた「平均と中央値を並べて見る」「MTBFの変化を追う」がそのまま実行できます。結果は棒グラフ・折れ線グラフ・円グラフ・ドーナツグラフで表示できます。
- 前年との比較が最初から出ている。ダッシュボードの設備パフォーマンス分析では、故障件数を棒グラフ、停止時間を折れ線グラフで、前年と今年を並べて確認できます。季節性のある故障や、対策後の変化を読み取る材料になります。
これらの統計・グラフ機能とダッシュボードは、フリープランで期間無制限・無料で利用できます。無料の範囲でどこまで運用できるかは、次の記事で解説しています。
よくある質問
Q. 記録が何ヶ月分たまれば、振り返りを始められますか?
A. 待つ必要はありません。1ヶ月目から始めてください。最初の数ヶ月は「傾向」は読めませんが、未対応の一覧を確認して1件ずつ処理を決める(材料2)だけでも十分な価値があります。傾向の分析は、記録が半年から1年分たまってから徐々に効いてきます。先に場をつくり、材料が育つのを待つという順序が確実です。分析できるようになってから場を設けようとすると、たいてい場は設けられません。
Q. 振り返りには誰が参加すべきですか?
A. 設備管理の担当者だけでも成立します。人数を集めることより、決めたことを実行できる人がいるかのほうが重要です。周期の変更や記録項目の見直しは担当者の判断で進められますが、設備の更新や予算に関わる判断が必要な段階では、決裁できる立場の人に月1回15分だけ同席してもらうと話が早く進みます。その際は、この記事の3つの材料をそのまま資料として使えます。
Q. 集計してみたら、記録が不十分で分析できませんでした。どうすればよいですか?
A. それ自体が振り返りの成果です。「停止時間が空欄で集計できない」「故障の原因が自由記述でばらばらのため集計できない」と分かったなら、次の月から何を必ず埋めるかを決め直してください。特に、故障の分類や原因を自由記述にしていると集計できないため、選択肢を決めて選ぶ方式に変えるだけで大きく改善します。記録の項目と書き方はメンテナンス記録・故障履歴の書き方を参照してください。過去分をさかのぼって直す必要はありません。
設備保全の用語や保全方式の正確な定義は、当社が運営に関わる中立メディア「設備メンテナンスNews」の用語集で、官公庁の一次資料にもとづき解説しています。あわせてご覧ください。
本記事は保全記録の振り返りと分析について、中小規模の現場を想定した一般的な進め方を解説したものです。指標の定義や算出方法は業種・文献によって異なる場合があります。実際の運用にあたっては、自社の設備と業務に合わせてご判断ください。