CMMS導入の手順とよくある失敗|小さく始めて現場に定着させる進め方

CMMS導入とは、設備の台帳・修理や故障の履歴・保全の予定を、紙やExcelからCMMS(設備保全管理システム)へ移し、現場が日々そこに記録する状態をつくることです。

進め方の要点は5つ。目的と範囲を先に決めること、データは最小限で始めること、範囲を絞って試すこと、移すデータと移さないデータを分けること、そして現場が記録を続けられる形にすることです。失敗の多くは製品選びではなく、この進め方の側で起きます。

CMMSの導入は、製品を契約した時点では半分も終わっていません。画面にログインできるようになってから、現場の記録がそこに貯まり始めるまでの間に、多くの導入がつまずきます。ここでは、中小規模の工場やビルの保全担当者が、CMMSを導入するときの手順を5つのステップで整理し、あわせて典型的な失敗パターンと避け方をまとめます。CMMSそのものの機能や選び方はCMMS(設備保全管理システム)とは?機能・選び方と無料で始める設備管理で、システム以前の仕組みづくりの全体像は設備管理の始め方|ゼロから仕組みをつくる5つのステップで解説していますので、本記事では「入れる工程」に絞ります。

CMMS導入が失敗する7つのパターン

先に、失敗の形を知っておきます。特定の会社の事例ではなく、導入が止まるときに共通して現れる型として読んでください。どれも製品の機能不足ではなく、進め方に原因があります。

失敗パターン 何が起きるか 避け方
1. 目的が決まっていない 「管理を良くしたい」のまま始め、全機能を同時に使おうとして、どれも中途半端になる 最初に解く困りごとを1つに絞る(ステップ1)
2. データを完璧に整えてから始めようとする 台帳の項目埋めや分類の議論に時間を使い、運用が始まらないまま熱が冷める 最小限の項目で登録し、空欄は運用しながら埋める(ステップ2)
3. 全設備・全部署で一斉に始める 問題が同時に各所で出て、対処しきれない。運用ルールが固まる前に不満だけが広がる 1つの範囲で試し、回ることを確かめてから広げる(ステップ3)
4. 過去のデータをすべて移そうとする 書き方がばらばらの古い履歴の整形に追われ、移行作業そのものが目的になる 移すものと移さないものを分け、古い履歴は参照用に残す(ステップ4)
5. Excelとの二重入力が終わらない 「念のため」両方に書く期間が続き、手間が倍になって、結局慣れたExcelだけが残る 切り替え日を決め、その日以降は旧ファイルに書かない(ステップ4)
6. 現場の入力負担が大きい 入力項目が多い、入力する時間が決まっていない、といった理由で記録が後回しになり、空白の期間ができる 入力項目を絞り、誰が・いつ入力するかを決める(ステップ5)
7. 記録が使われない 入力しても誰も見ないため、現場にとって記録が「報告のための作業」になり、質が落ちていく 月に一度、記録を見て判断する場を持つ(ステップ5)

7つを並べると、共通点が見えます。「最初から大きく、完璧に」始めようとしたときに失敗するということです。以降のステップは、小さく始めて、回ることを確かめながら広げる組み立てになっています。

CMMS導入の全体像 ── 5つのステップ

  1. 目的と範囲を決める。最初に解く困りごと、対象にする設備と台帳、入力する人を決める。
  2. データを準備する。設備の一覧と分類を最小限の項目でそろえる。
  3. 範囲を絞って試す。1つのラインや1つの建物で、実際の業務の記録を一定期間続けてみる。
  4. Excelや他システムから乗り換える。移すデータを選び、切り替え日を決めて旧環境への記入を止める。
  5. 現場に定着させる。入力の負担を下げ、記録が使われる場をつくり、範囲を広げる。

ステップ1. 最初に決める3つのこと

目的をひとつに絞る

CMMSは台帳、履歴、保全計画、点検、部品在庫、集計と多くの機能を持ちますが、導入の最初に全部を使う必要はありません。今いちばん困っていることを、次のような具体的な文にしてください。

  • 同じ故障が繰り返されているのに、前回どう直したかが分からない
  • 定期的な整備の予定が担当者の頭の中にあり、抜けても誰も気づかない
  • 設備の一覧が複数のExcelに分かれ、どれが最新か分からない
  • 修理にいくらかかっているかを、設備ごとに答えられない

1つめなら修理・故障の履歴、2つめなら保全計画、3つめなら設備台帳が、最初に使う機能になります。目的が決まれば、使う台帳と入力する項目が決まり、試行で何を確かめるかも決まります。壊れてから直す対応を減らし、壊れる前に手を打つ割合を増やしたい、という大きな目標がある場合も、最初の一歩は上のどれかになるはずです。

最初の範囲を決める

対象にする設備と場所を区切ります。「第1工場の成形ライン」「本館の空調設備」のように、担当者の顔ぶれが決まっていて、日々何かしらの作業が発生している範囲を選んでください。作業がめったに発生しない範囲では、試行しても記録が貯まらず、使えるかどうかを判断できません。

推進役と入力する人を決める

導入の推進役(質問の窓口になり、運用ルールを決める人)を1人決めます。あわせて、記録を入力するのは誰かを決めます。作業した本人が入力するのか、作業メモを受け取った保全担当者がまとめて入力するのか。これは後のステップ5で入力負担を左右し、製品によっては必要な利用者数、つまり料金プランにも関わります。

なお、自社の設備保全のデジタル化が今どの段階にあるかを確かめたい場合は、公的資料にもとづく段階の整理が参考になります。中立メディア「設備メンテナンスNews」の解説を参照してください。

ステップ2. 準備するデータ ── 最小限でよい

導入前に用意するデータは、思われているより少なくて済みます。「最初に必要なもの」と「後からでよいもの」を分けて考えてください。

データ 最初に必要なもの 後からでよいもの
設備の一覧 試行範囲の設備の名称、設置場所、管理番号(あれば)。これがすべての記録を紐づける先になる 型式、製造番号、メーカー、導入年月、金額。銘板や納品書を見て順次埋める
分類(設置場所・機種) 建物・フロア・ラインなど、現場で普段使っている呼び名の一覧。大まかでよい 細かい階層分け、重要度のランク。記録が貯まってから見直す
定期的に行う作業の一覧 目的が保全計画の場合のみ。試行範囲で定期的に行っている作業と、その周期 全設備分の計画。試行で回ることを確かめてから広げる
過去の修理・故障の履歴 なくても始められる。導入後に起きたことから記録すればよい 過去分の取り込み。移すかどうかはステップ4で判断する

ここでの注意点は2つです。ひとつは、設備の名称と分類の「呼び名」をそろえること。同じコンプレッサーが、ある表では「1号コンプレッサー」、別の表では「CP-1」「コンプ(北)」と書かれていると、システムに入れたときに別の設備として扱われてしまいます。項目を増やすことより、呼び名を1つに決めることに時間を使ってください。

もうひとつは、項目を埋めきることを開始の条件にしないことです。台帳は行(設備)が存在すれば履歴を紐づけられます。空欄があっても運用は始められ、運用していれば埋める機会は自然に来ます。

設備の一覧(台帳)の作り方、履歴の残し方、保全計画に載せる作業の拾い方は、それぞれ次の記事で解説しています。

ステップ3. 範囲を絞って試す

ステップ1で決めた範囲で、実際の業務の記録を、実際に入力する人が続けてみます。サンプルデータを眺めるだけの試用では、導入後に起きる問題は見えません。本物の設備を登録し、本当に起きた修理を記録してはじめて、「項目が足りない」「この入力は現場では無理だ」といったことが分かります。

試行を始める前に、次の2つを決めておきます。

  • 期間を区切る。終わりのない試行は、判断されないまま立ち消えになります。目安としては、月次の振り返りを少なくとも1回は挟める長さが必要です。保全計画を試すなら、予定日が何度か巡ってくる期間を取ってください。
  • 確かめることを決める。下の4点を、試行の終わりに判定します。
確かめること 見るポイント
記録が続いたか 期間中に起きた修理や作業が、漏れなく入力されているか。空白の週がないか
入力に無理がないか 1件の入力にかかる手間を、入力した本人がどう感じたか。使わなかった項目はどれか
目的に答えが出るか ステップ1の困りごとに対して、貯まった記録から答えを引き出せるか(例: この設備の前回の修理内容をすぐ出せるか)
足りないものは何か 利用者の数、項目、通知、サポートなど、本格運用で必要になるものが見えたか

試行でうまくいかなかった点は、失敗ではなく成果です。全社展開してから分かるより、はるかに安く済んでいます。項目を減らす、入力する人を変える、といった修正を加えてから、次の範囲へ広げてください。

ステップ4. Excelや他システムから乗り換える手順

試行で運用の形が固まったら、これまでの管理方法から本格的に乗り換えます。Excelからの移行でも、別のCMMSからの乗り換えでも、考え方は同じです。

移すデータと、移さないデータを分ける

データの種類 扱い 理由
設備の一覧・分類 必ず移す すべての記録を紐づける土台。ここが抜けると、その設備の記録を残す先がない
これから先の予定 移す(登録し直す) 定期作業の内容と周期は、新しい環境で予定として動かす必要がある。件数が限られるため、見直しを兼ねて手で登録してもよい
対応が終わっていない案件 移す 修理中、部品待ちなどの案件は、切り替え後も追いかける必要がある
過去の修理・故障の履歴 選んで移す、または移さない 書式がそろっていない履歴の整形は負担が大きい。旧ファイルを参照用に保管し、必要なときに見られれば足りることが多い

過去の履歴を移すかどうかは、「その履歴を、新しいシステムの上で集計や検索に使うか」で判断します。使うなら、重要な設備の分や直近の分に範囲を絞って整形する。使わないなら、旧ファイルを読み取り専用にして残す。全部をきれいに移すことを目標にしないのが、移行を終わらせるコツです。

乗り換えの手順

  1. 旧環境からデータを書き出す。Excelならそのファイル、別のシステムならCSVやExcelへの出力機能を使います。出力できる項目と形式は、乗り換えを決める前に確かめておきます。
  2. 項目の対応表を作る。旧環境の列が、新しいシステムのどの項目に入るかを1列ずつ書き出します。入れ先のない列は、備考にまとめるか、移さないかを決めます。
  3. 分類や選択肢を先に登録する。設置場所や機種などの分類は、設備データより先にシステム側へ用意します。データ側の表記(全角と半角、略称)を、登録した名称にそろえます。
  4. 少ない件数で試しに取り込む。最初から全件を流さず、10件ほどで取り込み、画面で見え方を確かめます。日付の形式や分類の不一致は、ここで見つかります。
  5. 全件を取り込み、件数を突き合わせる。旧環境の件数と、取り込まれた件数が一致するかを確認します。エラーになった行は、原因を直して取り込み直します。
  6. 切り替え日を決め、旧環境への記入を止める。その日以降の記録は新しいシステムだけに入れます。旧ファイルは削除せず、読み取り専用の参照用として残します。

設備管理の匠WEB版の場合

当社の「設備管理の匠WEB版」を例にすると、機器台帳にはExcelファイルからのインポート機能があります。画面からインポート用のテンプレート(Excel形式)をダウンロードし、手元の設備一覧をテンプレートの列に合わせて貼り付けて取り込みます。進め方は上の手順と同じで、次の点が具体的に決まっています。

  • 分類は先に登録する。設置場所や機種の分類は、ツリー形式のマスタとして先に登録しておきます。テンプレートに書いた分類がマスタに存在しない場合、その行はエラーになります。
  • 取り込みは予約して、結果を後から確認する。インポートは予約した処理として実行され、処理状況は「お知らせ」画面で確認できます。新規・更新・エラーの件数が記録され、処理結果のCSVでどの行に問題があったかを確かめられます。
  • エラーの理由が示される。「マスタに存在しない値」「日付ではない値」のように理由が出るため、該当する行を直して取り込み直せます。

また、各台帳の一覧にはCSV出力の機能があり、登録したデータを手元に書き出せます。乗り換え先を選ぶときは、入れやすさと同じくらい、入れたデータを自分で取り出せるかを確かめておくと、将来の選択肢を狭めずに済みます。

ステップ5. 現場が記録する状態をつくる

データが入り、切り替えが済んでも、現場が記録を続けなければ導入は成功していません。定着は気合いや周知ではなく、次の4つの設計で決まります。

  • 入力項目を絞る。必ず入力する項目は「どの設備に・いつ・何が起きて・何をしたか」に絞ります。原因の分類や費用の内訳など、あると良い項目は任意にして、書ける人が書く運用にします。項目は後から増やせますが、一度離れた現場を呼び戻すのは困難です。
  • 誰が・いつ入力するかを決める。「作業が終わったらその日のうちに本人が入力する」「作業メモを毎日夕方に保全担当者がまとめて入力する」のように、動作として決めます。「手が空いたときに」は、入力されないのと同じです。
  • 記録が使われる場面を見せる。故障が起きたときに、その設備の過去の履歴を画面で一緒に見る。これを一度経験すると、記録は「報告のための作業」から「次に自分が助かる道具」に変わります。
  • 月に一度、記録を見て決める場を持つ。件数の多い設備、対応が終わっていない案件、予定日を過ぎた作業を見て、次に何をするかを決めます。記録にもとづいて物事が決まる様子が見えることが、入力を続ける最大の動機になります。

入力の入口を現場に近づけることも有効です。点検のように設備の前で行う記録は、タブレットやスマートフォンからその場で入力できると、事務所での転記がなくなります。点検の仕組みを広げる場合は、設備点検表の作り方|点検項目の決め方と、記録が続く運用のコツを参照してください。なお、定期的な作業の予定を管理する保全計画と、設備の状態を確認して記録する点検は別の仕組みですので、広げるときはそれぞれの目的に合わせて順番に取り入れます。

導入を始める前のチェックリスト
  • 最初に解く困りごとを、1つの文で言えるか。言えなければ、まだ製品を触る段階ではありません。
  • 試す範囲と期間が決まっているか。設備の範囲、入力する人、終わりの日付の3つです。
  • 設備と分類の呼び名が1つにそろっているか。項目の多さより、表記の統一が先です。
  • 過去のデータのうち、移さないものを決めたか。「全部移す」は計画ではありません。
  • 切り替え日が決まっているか。その日以降、旧ファイルには書きません。
  • 月に一度、記録を見る場が予定に入っているか。見られない記録は、続きません。

導入のあと、記録・計画・振り返りの循環をどう回していくかは、設備管理の始め方|ゼロから仕組みをつくる5つのステップで順を追って解説しています。

小規模な現場が無料プランから始める場合

ステップ3の試行は、費用のかからない環境で行えると、社内の承認を待たずに始められます。当社の「設備管理の匠WEB版」のフリープランを例に、試行での使い方を整理します。

  • 試行に必要な台帳は、フリープランに含まれています。機器台帳、メンテナンス台帳、故障台帳、保全計画台帳、点検台帳(タブレットアプリを含む)、部品消耗品台帳、統計・グラフ機能を、初期費用・月額とも0円で利用できます。契約の最低期間はありません。
  • 保全計画台帳は100台帳まで。1つのラインや1つの建物に範囲を絞った試行であれば、この枠の中で計画を回せるかを確かめられます。
  • ログインできるIDは1つ。フリープランでは、ステップ1で決めた「入力する人」は1人になります。作業メモを保全担当者がまとめて入力する形で試し、複数人がそれぞれ入力する運用に広げる段階で、IDの数が多い有料プランを検討する、という順序が自然です。
  • 有料プランで加わるもの。予定日や未対応を知らせるメール送信機能、台帳の項目名の変更、電話・メールでのサポートなどは有料プランでの提供です。試行の「足りないものは何か」の判定で、これらが必要かどうかを見極めてください。
  • 使い続けることが前提です。フリープランは、入力が3か月以上行われない場合に利用を中止することがあります。期間を区切り、実際の記録を入れ続ける試行であれば、問題になりません。

フリープランは登録ページから申し込めます。無料の設備管理システム全般について、どこまでできて何を確認すべきかは、次の記事で解説しています。

よくある質問

Q. CMMSの導入には、どのくらいの期間がかかりますか?

A. 範囲によって変わるため、一律の答えはありません。期間を左右するのは製品の設定作業よりも、対象にする設備の数と、移そうとする過去データの量です。1つの範囲に絞り、設備の一覧だけを登録して記録を始めるのであれば、準備そのものは短く済みます。反対に、全設備・全履歴を整えてから始めようとすると、終わりが見えなくなります。期間を短くしたいなら、機能や人手を足すのではなく、最初の範囲を小さくしてください。

Q. 現場がなかなか入力してくれません。どうすればよいですか?

A. 入力を求める前に、3つを点検してください。必須の項目が多すぎないか、入力するタイミングが動作として決まっているか、入力された記録が誰かに使われているかです。多くの場合、原因は現場の意欲ではなく、この3つのどれかにあります。作業した本人による入力が難しい現場では、紙の作業メモを残してもらい、保全担当者がまとめて入力する形から始めても構いません。記録が貯まり、故障対応のときに役立つ場面が出てくると、協力は得やすくなります。

Q. まだ製品が決まっていません。先に何をすればよいですか?

A. ステップ1(目的と範囲)とステップ2(設備の一覧と分類の整理)は、製品が決まっていなくても進められ、どの製品を選んでも無駄になりません。そのうえで、無料で試せる製品に実際の設備を登録し、ステップ3の試行を行うと、カタログの比較では分からない「自社の現場で入力が続くか」を確かめられます。製品を比べるときの観点はCMMS(設備保全管理システム)とは?機能・選び方と無料で始める設備管理で、候補を同じ基準で採点して比べる方法は設備保全管理システム(CMMS)の選び方|比較の前に決める基準と機能チェックリストで解説しています。

設備保全の用語や保全方式の正確な定義は、当社が運営に関わる中立メディア「設備メンテナンスNews」の用語集で、官公庁の一次資料にもとづき解説しています。あわせてご覧ください。

本記事はCMMS(設備保全管理システム)の導入の進め方について、一般的な考え方を解説したものです。製品の機能・プランの内容は記事の最終更新時点のものであり、変更される場合があります。法令にもとづく点検・記録の要件は、設備の種類・規模・地域によって異なる場合があります。実際の運用にあたっては、該当する法令および所管官庁の資料をご確認ください。

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